先日、ある友人が興味深い体験を話してくれました。就職して収入を得るようになった息子さんが、父親の健康を気遣って「お父さん、お金出してあげるから、高額健康診断を受けてみて」と提案したそうです。友人はその気遣いに喜び、健康診断を受ける決心をしたとのこと。
一見すると心温まる親孝行の話ですが、この何気ない日常の光景の背後には考えるべき問題が潜んでいるのではないでしょうか。今回は、現代医療システムと健康診断の役割について、別の視点から考えてみたいと思います。
健康診断が抱える矛盾
テレビやラジオでは健康診断の重要性を訴えるCMが頻繁に流れていますが、医学研究者の中には健康診断の有効性に疑問を投げかける声もあります健康診断をこまめに受けている人の方が、発病率が高いという指摘もあります。
これは逆説的に聞こえるかもしれませんが、医療人類学の分野では「医原病」(医療行為によって引き起こされる疾患)という概念が研究されています。2022年の医療人類学会誌によれば、検査に使用される造影剤や放射線被曝などによる健康リスクが指摘されています。
また興味深い統計として、医者の数が多い国ほど生活習慣病死者が比例して多く、医者のほとんどいない途上国では、生活習慣病死者が少ないという相関関係も報告されています。もちろん、これは単純な因果関係ではなく、生活様式や食習慣など多くの要因が絡み合った複雑な現象です。
自己治癒力と免疫の重要性
現代医学の進歩は目覚ましいものがありますが、本来、人間の体には自己治癒力が備わっています。医療人類学者のダビド・セルバン=シュレイバー(2020年)は著書「アンチキャンサー」の中で、健康は自分自身の自己治癒力、免疫力だけが頼りであるという考え方を提唱しています。
医師の役割は、この自己治癒力をサポートすることにあるのかもしれません。「医者が治してくれた」と思える場合でも、実際には患者自身の回復力が大きく寄与していることが多いのです。
がん診断の本質を考える
がんの早期発見・早期治療は医学界の常識とされていますが、これに対する異なる見解も存在します。がん研究者の一部は、がんは汚れた血液の貯蔵庫であり、早期発見・早期切除しても、血液の状態が改善されなければ、新たながんが発生する可能性があるという考え方を示しています。
この見解が正しいかどうかは別として、がん治療において単に「切除する」だけでなく、全身の健康状態や生活習慣の改善が重要であることは多くの医師が認めるところでしょう。
常識を問い直す勇気
アインシュタインの言葉として知られる「常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう」という名言は、私たちの思考の枠組みを問い直す上で重要な示唆を与えてくれます。
健康や医療に関する常識も例外ではありません。たとえば「定期的な健康診断が必ず健康につながる」という考え方も、絶対的な真理ではなく、一つの社会的常識かもしれないのです。
バランスのとれた視点を
もちろん、健康診断そのものを否定するわけではありません。命を救った早期発見の例も数多く存在します。大切なのは、メリットとデメリットを理解した上で、自分自身の健康に対する責任を持つことではないでしょうか。
医療システムを適切に活用しながらも、日々の生活習慣や食事、運動、心の健康にも目を向けることで、真の意味での健康を追求していきたいものです。


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